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京都地方裁判所 昭和63年(行ウ)16号 判決

京都市西京区松尾東ノ口町八番地

原告

国府久雄

右訴訟代理人弁護士

村井豊明

浅野則明

渡辺馨

京都市右京区西院上花田町一〇番一号

被告

右京税務署長 森垣省吾

右指定代理人

本多重夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、昭和六二年三月二日付けでした原告の昭和五八年分ないし昭和六〇年分の所得税更正処分のうち、昭和五八年分については別表1の修正申告欄、その余の各年分については各確定申告欄記載の総所得金額を越える部分並びにこれに対する過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は、原告が、被告のした各所得税更正処分に調査手続上の違法及び総所得金額を過大に認定した違法があるとして、その取消を求めた抗告訴訟である。

二  前提事実(争いがない)

原告は、肩書住所地においてスリッター業を、京都市西京区上桂宮ノ後町三六番地において持ち帰り弁当製造販売業を営む者であり、その昭和五八年分ないし昭和六〇年分の所得税の確定申告、修正申告、更正処分、異議申立て、異議決定、審査請求、裁決の経緯は、別表1記載のとおりである。

三  原告の主張

1  調査手続の適法性について

被告は、次の違法な税務調査に基づき本件各処分をした。

(一) 事前通知をしなかった。

(二) 具体的調査理由を明らかにしなかった。

(三) 第三者の立会を理由に帳簿書類を見ようとしなかった。

(四) 資料を提出すれば反面調査をしないと約束しながら、これに反して取引先に対し、不当な調査をした。

2  推計の必要性について

右1記載のとおり、被告の調査手続は違法であるから、原告が帳簿書類の提出を拒んだり、修正申告のしょうように応じなかったとしても、調査拒否には当たらない。したがって、推計の必要性がない。

3  推計の合理性について

(一) 持ち帰り弁当製造販売業について

原告は、持ち帰り弁当製造販売業については、その営業に全く従事しておらず、雇人によって営業している。したがって、経営者自身が就労している場合に比較して、所得率はかなり低くなる。このような、営業形態、内容の差異を無視した被告の推計には合理性がない。

また、被告の抽出した同業者間の所得率が乖離しており、同一同業者(伏見A)の所得率の変動も大きく、合理性がない。

したがって、原告同様雇人によって経営をしている同業者(右京B)の昭和六二年ないし平成元年分の所得率を用いて推計することが合理的である。

(二) スリッター業について

原告は、幅広スリッター業を営んでおり、紙管、段ボール箱などの材料費を自己調達ないし負担している。しかし、被告は、原処分時の抽出同業者と異なり、所得率の高いマイクロスリッター業者、紙管、段ボール箱などの材料費を発注者が負担している業者を同業者として抽出し、所得率の低い同業者を意図的に除外しており、合理性がない。

また、原告の負担した紙管、段ボール箱などの材料費(昭和五八年分三三一万七一六六円、昭和五九年分三一三万三七八〇円、昭和六〇年分一五四万八六一五円)を、売上金額から控除すべきである。

4  特別損失の主張

原告は、主たる取引先である山田紙業株式会社(以下、山田紙業という)に対し、昭和五八年ないし昭和六〇年の各六月頃、バックリベートとして各一八〇万円を支払った。これは特別損失として控除すべきである。

5  利子所得金額について

被告主張の利子所得金額のうち、京都市農業協同組合(以下、京都市農協という)松尾支店の国府美津子名義の定期預金に係るもの二口及び通知預金に係るものについては、いずれも、原告の母である国府美津子に帰属する所得である。

なお、この利子所得のような原処分、異議決定時に何ら考慮されていなかった別個の所得金額の主張をすることは許されない。

四  被告の主張

1  調査手続の適法性について

質問検査権の範囲、程度、時期、方法等は、税務職員の合理的な選択に委ねられており、事前通知、調査理由の告知等も、その要件ではない。

本件税務調査手続に、社会通念上相当な限度を越えた違法な点はない。

2  推計の必要性について

(一) 被告は、部下職員をして、被告の本件係争各年分の所得税調査に当たらせた。右職員は、昭和六一年八月七日以降、前後七回にわたり原告の肩書住所に赴き、両事業にかかる帳簿書類の提示等税務調査に対する協力を求めたが、原告は、収入金額に関する一部の資料を提出したものの、調査に関係のない第三者の立会いを要求し、反面調査に対する抗議を行うなどして、税務調査に協力しなかった。

(二) このため、被告は、やむを得ず、原告の取引先等に対する反面調査を行い、推計により算出した金額に基づき本件各処分を行った。

(三) したがって、本件につき、推計の必要性が存在する。

3  事業所得の推計の合理性について

原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、別表2「事業所得の金額の計算」の〈7〉欄記載のとおりであり、昭和五八年分が九三一万四八六二円、同五九年分が八九三万九八七五円、同六〇年分が六八一万二三四六円である。

右事業所得の金額の算定方法は以下のとおりである。

(一) 持ち帰り弁当製造販売業

(1) 売上金額(争いがない)

原告の本件係争各年分の売上金額は、別表2の〈1〉欄の各(a)記載のとおりであり、昭和五八年分が三五九六万七七一〇円、同五九年分が三五六九万一三八〇円、同六〇年分が三五三〇万五三三〇円である。これらの金額は、原告がほっかほっか亭京滋地区本部へ報告した金額である。

(2) 算出所得金額

算出所得金額は、別表2の〈3〉欄の各(a)記載のとおりであるが、これらの金額は、前記(1)の各売上金額に、別表2の〈2〉欄の各(a)記載の同業者の算出所得率(売上金額から売上原価、一般経費及び専従者給与の金額を控除した金額の売上金額に対する割合)の平均値をそれぞれ乗じて算出したものである。

また、同業者の算出所得率の算定根拠は別表3ないし5「持ち帰り弁当の同業者の所得率等一覧表」記載のとおりである。

なお、一般経費とは、総経費から特別経費である利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、繰延資産の償却費、税理士報酬及び減価償却資産の除却損を除いたものをいう。

(3) 営業形態の違いについて

一般に同業者の所得率の平均値による推計の場合、推計の基礎となる各同業者間に差異があるのはむしろ当然のことである。

そして、同業者率(所得率)は、当該納税者と同種、同規模の同業者を選定し、その所得率の平均値を算出するものであるから、通常の同業者間に存在する差異は同業者率(所得率)の平均値に包摂され、個々の同業者の個別的具体的事情は捨象されて客観性、普遍性を持つ。したがって、同業者の抽出基準として業種・業態の同一性、営業規模の一応の類似性がある他、同業者の抽出に当たり恣意が介在するおそれのない等の推計の基礎的条件が欠けていない限り、同業者間に通常存する程度の営業上の諸形態の差異は、それが平均値による推計自体を不合理ならしめる程度に顕著な場合は格別、平均値算出過程において捨象される性質のものである。

原告は、持ち帰り弁当製造販売業に従事せず、店長を置くなど雇人費の割合が高いというが、原告は、現金の突き合わせ作業、アルバイトの採用、時間給の決定、給与計算等を行っており、経営に従事していないとはいえず、結局、従業員の数の問題にすぎないのであって、同業者間に通常存する程度の営業上の差異にすぎない。

(4) 同業者の所得率の乖離について

原告は、同業者間の所得率に乖離があると主張するが、被告は、後記のとおりの抽出基準に該当する同業者の全てを算定の基準としたものである。

また、原告は、同業者のうち伏見Aについて所得率の変動が大きいと主張する。確かに、伏見Aの売上金額についてみると、昭和五八年分から同五九年分にかけて、売上金額が約一〇八九万減少している。このように、売上金額が急激に減少した場合に、売上金額の減少にスライドして一般経費(特に固定的な経費)の支出を削減することができず、その結果、一時的に一般経費率(売上金額に対する一般経費の割合)が急激に高くなり、算出所得率が極端に低くなる現象が生じるのは経済社会においては頻繁に繰り返されるごく一般的な現象である。このような現象は、経営の改善・合理化・縮小等の努力を通じて早い者では数か月後に、そうでない者でも二、三年後には元のように立ち直り利益(所得)を増加させるのが経済社会における一般的な現象である。したがって、右は推計の合理性を喪失させる特別の事情ということはできない。

(二) スリッター業について

(1) 売上金額(争いがない)

原告の本件係争各年分の売上金額は、別表2の〈1〉欄の各(b)記載のとおりであり、昭和五八年分が一五八三万一二一八円、同五九年分が一四九三万七六七一円、同六〇年分が九二九万二二七〇円である。その取引先別明細は、別表6「スリッター業に係る収入金明細表」記載のとおりである。

(2) 算出所得金額

算出所得金額は、別表2の〈3〉欄の各(b)記載のとおりであるが、これらの金額は、前記(1)の各売上金額に、別表2の〈2〉欄の各(b)記載の同業者の算出所得率(売上金額から売上原価、一般経費及び専従者給与の金額を控除した金額の売上金額に対する割合)の平均値をそれぞれ乗じて次のとおり算出したものである。

また、同業者の算出所得率の算定根拠は、別表7ないし9「スリッター業の同業者の所得率等一覧表」記載のとおりである。

なお、一般経費とは、総経費から特別経費である利子割引率、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、繰延資産の償却費、税理士報酬及び減価償却資産の除却損を除いたものをいう。

(3) 同業者の類似性について

原告は、同業者は所得率の高いマイクロスリッター業を営んでいると主張するが、その根拠は曖昧である。しかも、マイクロスリッターの主たる材料は、糸ではなくポリエステルフィルムであるから、付加価値が高いとはいえず、所得率が高いとは限らない。

原告は、紙管等の材料を自己調達ないし負担しているというが、売上先の一つは明らかに無償支給している。材料をどちらが負担するかは売上先によって決定されるもので、この点が業態として、同業者と相違しているとはいえない。また、たとえ利益を生み出さない取引であってもその取引金額は総収入金額に含まれるから、材料費を含めて取引している場合には、材料費を売上金額から控除するべき理由はない。

(三) 同業者の抽出経緯

大阪国税局長は、原告の事業所の所在地を所轄する被告及びその隣接地域を所轄する京都府下の上京、中京、下京、伏見、宇治、園部の各税務署長に対し、所得税の確定申告書を提出している者のうち、〈1〉持帰り弁当製造販売業(ただし、ほっかほっか亭チェーンに加盟の者に限る)を営む者及び〈2〉スリッター機を用いて紙、ビニール等の受託加工業(スリッター業)を営む者で、本件係争各年分を通じて次の(1)ないし(6)の条件にすべて該当する者を抽出するよう通達指示したところ、右各税務署長が右抽出基準に従って抽出した納税者(同業者)の総数は、〈1〉持帰り弁当製造販売業を営む者が五名と〈2〉スリッター業を営む者が七名であった。

(1) 青色申告書を提出していること

(2) 事業所が上京、中京、下京、右京、伏見、宇治及び園部の各税務署管内にあること

(3) 他の業種目を兼業(明確に区分計算している者を除く)していないこと

(4) 年間を通じて事業を継続して営んでいること

(5) 売上金額が〈1〉については一七〇〇万円以上七二〇〇万円未満であること、〈2〉については四五〇万円以上三二〇〇万円未満であること

なお、売上金額の範囲は、原告の売上金額の〈1〉及び〈2〉とも上限を昭和五八年分のおおむね二倍、下限を昭和六〇年分のおおむね〇・五としたものである。

(6) 対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと

(四) 特別経費の金額

(1) 利子割引料(争いがない)

利子割引料の金額は、原告が京都市農協松尾支店に対して借入金に係る利息として支払った金額であり、昭和五八年分が、五六万四七三三円、同五九年分が、三三万七七四六円、同六〇年分が、一九万七九一五円である。

(2) 営業権償却費(争いがない)

営業権償却費の金額は、原告が昭和五七年一〇月ほっかほっか亭を開店する際に、ほっかほっか亭京滋地区本部に対して、フライチャイズ加盟料として支払った八〇万円に対する償却費であり、その計算は次のとおりであって(所得税法基本通達五〇-三)、各年分とも一六万円である。

八〇万円×一二月÷六〇月(五年)=一六万円

(3) 原告主張の特別損失について

原告主張のバックリベート支払の事実は否認する。

4  利子所得の金額

(一) 原告の京都市農協松尾支店分の利子所得の金額は、別表10「利子所得金額の内訳」の〈1〉欄記載のとおり、昭和五八年分が一八四万〇四四三円、同五九年分が二〇一万七八三八円、同六〇年分が二〇四万三八八四円である。

原告は、国府美津子名義の定期貯金二口及び通知貯金は、母国府美津子のものであり、その利子所得は、原告に帰属しないという(その余の利子所得の金額及び帰属は争いがない)が、右各貯金の利子は、原告名義の定期貯金の利子及び他の仮名貯金の利子と併せて原告名義の普通貯金口座に入金されており、原告に帰属するものである。

(二) 原告の京都中央信用金庫本店分の原告名義の定期預金に係る利子所得の金額は、別表10「利子所得金額の内訳」の〈2〉欄記載のとおり、昭和五八、五九年分がいずれも一四万九五〇〇円、同六〇年分が一四万三〇〇〇円である(争いがない)。

(三) 原告の三和銀行四条大宮支店分の原告名義の定期預金に係る利子所得の金額は、別表10「利子所得金額の内訳」の〈3〉欄記載のとおり、昭和五九年分が二二万八七四三円、同六〇年分が二六万六三三五円である(争いがない)。

(四) 原告の本件係争各年分の利子所得の金額は、前記(一)ないし(三)の合計額から、原告名義の定期貯金利息のマル優分(別表10の〈1〉の※印の金額)を控除した金額であり、別表11(1)「利子所得の金額」記載のとおり、昭和五八年分が一八〇万九一五四円、同五九年分が二二一万八七四〇円、同六〇年分が二二八万四二九九円である。

5  雑所得の金額(原告は明らかに争わない)

原告が京都市農協松尾支店に設けた定期積金に係る給付補てん金であり、別表11(2)「雑所得の金額」記載のとおり、昭和五八年分が一〇万五〇〇〇円、同五九年分が六万〇六一七円である。

6  総所得金額

以上のとおり、原告の本件係争各年分の総所得金額は、別表12記載のとおり、昭和五八年分が一一二二万九〇一六円、昭和五九年分が一一二一万九二三二円、昭和六〇年分が九〇九万六六四五円である。

第三争点の判断

一  調査手続の適法性について

所得税法二三四条一項所定の質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものである。したがって、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったとはいえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、課税処分の取消事由にはならないものと解するのが相当である。

そうすると、原告の主張する前記第二の三の1記載の事実関係を前提としたとしても、被告の部下職員による質問検査権行使の過程に本件各処分の取消事由となるような重大な違法があるとは認められないから、原告の主張1は、主張自体失当というべきである。

のみならず、右質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられている。また、事前通知を行うことや、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているものではない(最決昭四八・七・一〇刑集二七巻七号一二一一頁、最判昭五八・七・一四訟務月報三〇巻一号一五一頁)。

いわゆる反面調査について特に納税義務者の承諾を得る必要はなく、質問検査を必要とする客観的理由が存在する限り、右の要件の下に質問検査権行使の一つとして反面調査を行うことができる。

そして、本件において、事前通知をしないこと、原告主張の調査理由の開示をしないこと、調査に第三者の立会いを認めず、これを理由に帳簿書類を見なかったこと、原告の承諾なく反面調査を行ったことなどにつき、調査担当職員に裁量権の濫用があるとか、本件調査の方法や程度が、原告との利益衡量において、社会通念上相当な限度を越え違法であるとすべき事実は、本件全証拠によるも認めることはできない。

よって、原告の主張1は失当である。

二  推計の必要性について

証拠(証人篠塚孝之、原告(第一回))、弁論の全趣旨によれば、被告の主張2(一)の事実が認められる。

したがって、被告が原告の本件係争各年分の所得税を算出するについて、推計課税を行う必要があったことが認められ、これに反する原告本人尋問の結果(第一回の一部)は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  推計の合理性について

1  同業者の抽出経緯

(一) 証拠(乙二ないし一五、証人小崎安高)によれば、被告の主張3(三)の事実が認められる。

右同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点で同業者の類似性を判別する要件として合理的なものである。その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められず、かつ、右調査の結果の数値は青色申告書に基づいたもので、その申告が確定しており信頼性が高い。抽出した同業者数も〈1〉持ち帰り弁当製造販売業を営む者が五名、〈2〉スリッター業を営む者が七名であるから、各同業者の個別性を平均化するに足りるものである。そして、右各同業者の本件係争各年分の売上金額、算出所得金額、算出所得率は、〈1〉持ち帰り弁当製造販売業を営む者が別紙3ないし5、〈2〉スリッター業を営む者が別紙7ないし9記載のとおりである。

したがって、右各同業者の算出所得率の平均値を基礎に算出された原告の本件係争各年分の両事業の所得金額の推計には、特段の事情のない限り、合理性があるものということができる。

(二) 原告は、持ち帰り弁当製造販売業について、自らその営業に従事せず、雇人によって営業しているという業態の差異を無視して同業者が抽出されている旨主張する。しかし、推計による所得金額の算出において、その性質上、同業者との間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均値の中に吸収されるものというべきである。本件において、証拠(甲二二、三三〇)によれば、同業者のうち右京Bは経営者が就労していないこと、ほっかほっか亭京滋地区本部においては、経営者が就労していない場合には原価率は一ないし三%高くなる(算出所得率は一ないし三%低くなる)と考えていることが認められる。しかし、別表3ないし5に照らすと、右京Bの算出所得率が、他の同業者に比べて特に低い訳ではなく、証拠(甲二、三三〇、原告(第二回))によれば、ほっかほっか亭のフランチャイズシステムにおいては、原価率を五五%とみているが、月商三〇〇万円(年商三六〇〇万円・ほぼ原告に匹敵する)の場合の純利益は三六万二〇〇〇円(即ち、一二%・本件の同業者の算出所得率の平均値よりも高い)とみていることが認められ、かかる事実に照らしても、経営者の就労の有無が、業態の類似性を欠き、平均値による推計を不合理ならしめるものとは認められない。

原告は、別件訴訟(当裁判所平成四年(行ウ)第二六号)における右京Bの算出所得率が、同事件の同業者に比して低いことを理由に、本件の推計が不合理であると主張するが、対象年分が異なっており、右主張は採用できない。

原告はまた、同業者のうち伏見Aの所得率の変動が大きく、合理性がないと主張する。確かに、別表3及び4によると、伏見Aの売上金額は、昭和五八年分から昭和五九年分にかけて一〇〇〇万円以上も減少していることが認められ、この点に関して原告本人は、伏見Aは、経営者が病気で就労できず、売上が低下して、雇人費が増大したと供述している。しかし、原告本人の右供述を裏付けるに足りる証拠はなく、被告主張のように、売上金額の減少に伴い、一時的に算出所得率が極端に低くなることも経済社会において往々にして起こりうる現象であるから、この点は、被告の推計を不合理ならしめるものではない。

(三) 原告は、幅広スリッター業を営んでおり、同業者は所得率の高いマイクロスリッター業者であると主張し、原告本人(第二回)もその旨供述している。しかし、同業者がマイクロスリッター業者であること、スリッターの対象の違いにより所得率に著しい差異があることについて、原告の供述には的確な裏付証拠はなく、証人小崎安高の証言に照らしても、たやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

また、原告は、紙管等の材料費を自己調達ないし負担していると主張する。そして、証拠(甲五、六、七、原告(第一回))によれば、原告は、本件係争各年分において、紙管、段ボールケース等を仕入れていることが認められる。しかし、材料を無償で支給している売上先もあり(原告(第一回))、原告本人の供述によっても、材料費をいずれが負担するかは、売上先との取引内容によるというのであって、原告の売上金額に材料費が含まれており、これを含めて支払を受けていることについて、裏付証拠もない。また、仮に、材料費を含めて取引している場合には、材料費を含めた取引金額が売上金額に該当するものであるから、材料費を売上金額から控除すべき理由はない。

したがって、原告のこの主張も採用できない。

2  持ち帰り弁当製造販売業の売上金額

別表2の〈1〉欄の各(a)記載のとおりであり、当事者間に争いない。

3  持ち帰り弁当製造販売業の算出所得金額

証拠(乙九、一二ないし一四)によれば、同業者の売上金額、算出所得金額、算出所得率は、別表3ないし5記載のとおりと認められる。

右2認定の本件係争各年分の売上金額に、別表3ないし5の同業者の算出所得率の平均値を乗じて得られる原告の算出所得金額は、別表2の〈3〉欄の各(a)記載のとおり、被告の主張額と同額である。

4  スリッター業の売上金額

別紙2の〈1〉欄の各(b)記載のとおりであり、当事者間に争いがない。

5  スリッター業の算出所得金額

証拠(乙一二ないし一四)によれば、同業者の売上金額、算出所得金額、算出所得率は、別表7ないし9記載のとおりと認められる。

右4認定の本件係争各年分の売上金額に、別表7ないし9の同業者の算出所得率の平均値を乗じて得られる原告の算出所得金額は、別表2の〈3〉欄の各(b)記載のとおり、被告の主張額と同額である。

6  特別経費の金額

(一) 利子割引料

争いがない。

(二) 営業権償却費

争いがない。

(三) 特別損失について

原告は、山田紙業に対して、本件係争各年分について、各一八〇万円をバックリベートとして支払ったと主張し、これを特別損失として算出所得金額から控除するよう主張する。

しかし、必要経費の一部について被告主張の経費額を上回ることを主張立証したとしても、被告の主張する売上金額自体が推計課税の合理性を基礎づけるものにすぎず、原告の真実の収入金額全額の主張ではないのであるから、これから右経費を控除したとしても、原告の真実の所得金額の算定ができないことは明らかである。したがって、総収入金額とこれに対応する必要経費全額についての主張をしないで、右経費の一部のみの主張をすることは、主張自体失当というべきである。

のみならず、原告は右主張を裏付けるものとして、原告本人の供述(第一回、甲三三八はその陳述書)の他、甲三三一の小切手の耳の部分を証拠として提出している。しかし、右小切手は、昭和五六年六月に振り出されたもので、その裏書には「中澤美雄」と記載されており(乙二三)、山田紙業ないしその関係者の署名とは認めがたく、バックリベートの受領について明確な記憶がないとする証人山田芳弘の証言(乙一六、二四はその陳述書)とも照らし併せると、原告の供述のみで右主張事実を認めることはできないといわざるをえず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

7  事業所得の金額

以上の事実によれば、原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、3と5の算出所得金額の合計額から6(一)、(二)の特別経費の金額を控除した額であるから、別表2の〈7〉欄記載のとおり、被告の主張額と同額である。

四  利子所得の金額

1  別表10の〈1〉欄記載の京都市農協松尾支店分の利子所得の金額のうち、国府美津子名義の定期貯金二口及び通知貯金以外の利子所得が、原告に帰属することは争いがない。

そして、国府美津子名義の右各貯金の利子所得の金額自体については争いがないところ、原告本人は、右各貯金は母国府美津子の貯金であると供述し、証人国府美津子もこれと同旨の供述をしている。右国府美津子の証言によると、同証人の夫(原告の父)は、地方公務員であったが一八年程前に死亡し、その後同証人は夫の恩給を受給し、これを京都市農協松尾支店に貯金し、金額がまとまると定期貯金にしていたこと、これらの手続は原告に依頼していたことが認められる。これらの事実によると、右利子所得の発生の元になる定期貯金は国府美津子に帰属するのではないかとの疑いがぬぐいきれない。

利子所得とは預貯金の利子にかかる所得をいう(所得税法二三条一項)ものであるから、その発生の元になる貯金が国府美津子に帰属する疑いがある以上、その利子にかかる所得も、同人に帰属する疑いがあるといわざるをえず、原告に帰属するものであるとは、直ちに認めがたいというべきである。

これに対し、被告は、右各貯金の利子は、原告名義の定期貯金及び他の架空名義の定期貯金の利子と共に、原告名義の普通貯金口座に入金されている(乙二二)から、右各貯金にかかる利子所得は原告に帰属すると主張する。しかし、右事実をもってしても前記疑いはぬぐいきれず、結局、右各貯金の利子所得が原告に帰属するとの点について、被告の立証が不十分といわざるをえない。

2  別表10の〈2〉欄記載の京都中央信用金庫本店分、〈3〉欄記載の三和銀行四条大宮支店分の各定期預金の利子所得の金額及び原告名義の定期貯金利息のマル優認容分の金額は、いずれも争いがない。

3  したがって、原告の本件係争各年分の利子所得の金額は、被告主張の金額から国府美津子名義の前記三口の貯金にかかる利子所得の金額を差し引いた額となるから、別表13(1)記載のとおりとなる。

4  なお、原告は、原処分時に何ら考慮されていなかった別の所得金額の主張は許されないと主張する。しかし、所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とするものであり(所得税法二二条一項)、右総所得金額は、事業所得の金額、利子所得の金額、雑所得の金額等の合計額とされており(同条二項)、更正処分の段階で考慮されていなかった別個の所得金額を、訴訟において主張することも許されるものと解するのが相当である(最判昭和五〇・六・一二税務訴訟資料八一号八一二頁参照)から、右主張は採用できない。

五  雑取得の金額

原告において明らかに争わないから、自白したものとみなす。

六  総所得金額

以上によれば、原告の本件係争各年分の総所得金額は、別表14記載のとおりとなる。

第四結論

以上のとおりであるから、被告の推計による本件係争各年分の更正処分は、いずれも別表14の総所得金額の範囲内でなされた適法な処分であり、これに違法な点はない。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 裁判官 遠藤浩太郎)

別表1 原告の係争各年分の所得税及び加算税の課税関係一覧表

別表2 事業所得の金額の計算

別表3 持帰り弁当の同業者の所得率等一覧表(昭和58年分)

別表4 持帰り弁当の同業者の所得率等一覧表(昭和59年分)

別表5 持帰り弁当の同業者の所得率等一覧表(昭和60年分)

別紙6 スリッター業に係る収入金明細表

別表7 スリッター業の同業者の所得率等一覧表(昭和58年分)

別表8 スリッター業の同業者の所得率等一覧表(昭和59年分)

別表9 スリッター業の同業者の所得率等一覧表(昭和60年分)

別表10 利子所得金額の内訳

別表11 利子所得・雑所得の合計表

(1) 利子所得の金額

(2) 雑所得の金額

別表12 原告の総所得金額

別表13 利子所得・雑所得の合計表

(1) 利子所得の金額

(2) 雑所得の金額

別表14 原告の総所得金額

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